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まちづくり・モビリティ

次世代モビリティインフラを構築する:OpenStreet株式会社

2025.04.17

インタビュー者紹介

OpenStreet株式会社
代表取締役社長CEO

工藤 智彰 Kudo Tomoaki

企業や研究機関、自治体といった様々なパートナーと連携し、エネルギーや環境、次世代技術に関する課題解決や新しい価値創造を目指す、ENEOS CVC。今回はENEOSと“将来のモビリティプラットフォーム構築に向けた協業”に取り組むパートナー「OpenStreet株式会社」を紹介します。

ENEOSは「2040年グループ長期ビジョン」で掲げた「カーボンニュートラル社会の実現」に向け、まちづくりやモビリティに関する低炭素・脱炭素事業の創出を目指し、2020年にOpenStreet社へ出資。同社の提供するシェアリングプラットフォームを活用して、さまざまな実証実験や取り組みを進めています。

今回はOpenStreet社が提供しているシェアサイクルプラットフォーム「HELLO CYCLING」の特徴やENEOSとの協業の経緯、そして今後の事業展開などについて、代表取締役社長CEOの工藤 智彰氏にインタビューを行いました。




シェアサイクルで地域のインフラ課題解決に貢献

―まずはOpenStreet社の概要について教えてください。

弊社はマイクロモビリティのシェアリングプラットフォームを開発・提供する企業です。

具体的には、シェアサイクリングサービス「HELLO CYCLING」や、小型EVやスクーターのモビリティシェアサービス「HELLO MOBILITY」などを運営しています。登録から予約までアプリで完結し、いつでもどこでも好きな時にアプリからモビリティの予約やステーションの検索ができるIoTサービスです。

これらのサービスはオープンプラットフォーム型のシステムを採用しており、ENEOSやダイチャリなど多くの企業に参画いただいて、ユーザーにサービスを提供しています。簡単に言うと、弊社がプラットフォームを提供して、実際にモビリティを設置する場所やモビリティ本体を外部の企業・団体から提供していただく、という構造です。

自治体や公共交通と連携して、交通機関がない場所のインフラを整備することで地域の課題解決に貢献しています。

-シェアサイクルが定着し多くの競合が存在していると思いますが、どのように差別化されているのでしょうか。

昨今ではさまざまな企業が登場していますが、創業初期、とりわけ2020年頃まではドコモ・バイクシェアと弊社が二大巨頭でした。当初は自治体と組んでどのエリアを確保できるかという陣取り合戦をしていましたが、今ではサービスエリアが被り出していて、一つの場所をどう確保するかが課題になっています。

しかし、ドコモ・バイクシェアとは2024年7月から業務提携を締結し、相互乗り入れを可能にしました。まだ実際に乗り入れは始まっていませんが、2025年度前半には、横浜市でドコモ・バイクシェアのモビリティをOpenStreet(HELLO CYCLING)のステーションにとめることができますし、反対にOpenStreet(HELLO CYCLING)のモビリティをドコモ・バイクシェアのステーションにとめることができるようになります。

ユーザー視点で考えれば、運営会社に関わらずどのステーションでも自由に乗り降りできる環境が一番利便性が高いことは明らかであり、まさに公共交通機関の代表格である電車がそうであるように、シェアサイクルもそうなっていくべきだと考えています。




ソフトバンクアカデミアから生まれたシェアサイクル事業

-事業を立ち上げられた経緯を教えてください。

弊社は一般的なスタートアップとは異なり、ソフトバンクの新規事業提案制度から生まれた組織です。

ソフトバンク社創業30年の節目に、人事の取り組みとして「ソフトバンク新30年ビジョン」が発表され、そこで始まったのがソフトバンクアカデミアという企業内学校です。孫さんの後継者を育成しようというプログラムで、OpenStreetはここから生まれました。

当時ソフトバンク社の人事部に在籍していた私はこの企画の運営に携わっており、バックオフィス全般を担っていました。その過程でシェアサイクル事業の将来性に期待を抱き、この会社を短期的な新規事業で終わらせず持続性のある会社にしたいと、ソフトバンク社を辞めてOpenStreet社に転籍しました。

創業した2016年は、2020東京オリンピック開催に向けて物事が動いているタイミングで、世界中の方が日本にやってきたときの国内の移動手段が課題の一つとして挙げられていました。特にラストワンマイルの移動の選択肢が徒歩かバスしかなく、当時はまだシェアサイクルというサービスはほぼなかったと記憶しています。

そこでシェアサイクルを「イベントのための便利な移動手段」として提供しようと考えていたのですが、話を進めていくうちに日本のラストワンマイル移動には根深い課題があることに気づきました。

それからイベントのための便利な移動手段を提供するというスタンスから、地域に根ざした公共交通を補完するサービスを提供する方針にシフトチェンジをしました。

あいにくコロナの流行により状況が一変してしまったのですが、マイクロツーリズムと上手くかみ合ったこともあり、現在まで事業を継続させることができています。

例えば埼玉・千葉・神奈川などのベッドタウンでは、都心に行くために最寄り駅に行く移動手段や、自分のベッドタウン内で活動する際の移動手段としてのニーズに、シェアサイクルが合致しました。

またコロナ以降リモートワークをするようになった人がランチのために外出したり、週末自転車で周辺にレジャーに行ったりする人が増え、これまでになかったシェアサイクルの需要が生まれたのです。ラストワンマイル移動を謳っていますが、電動アシスト自転車で30分乗り続けると結構な移動距離をカバーできるんですよ。




パートナービジネスへの転換が、事業拡大のキッカケに

-そこから現在まで、どのように事業を展開されたのでしょうか。

まずはYahoo!から資本を入れて事業を展開しようと試みましたが、やはりシェアサイクルを拡大させるためには物理的なリソース(場所)を押さえる必要があると痛感し、さまざまなパートナーを巻き込んで進めていく方針に転換しました。

ENEOSとの協業もまさにその一環で、スマートシティなど自治体との取り組みを一緒に推進するなど、弊社だけではリーチできなかった領域を開発できました。全国に拠点を持っているENEOSの信頼感が非常に大きいことを実感しています。

その後も全国各地のパートナー企業を増やし、急成長というより徐々に事業を拡大させてきました。

-創業からこれまでに苦労されたことはありますか。

創業時、スタートアップとしてハードウェアを作ってビジネスを立ち上げるのは非常に難しかったです。規模が小さいため発注ロットが少ない(増やせない)、そうするとコストは高くてさらに品質も悪い…というジレンマの中、ビジネスをスケールさせるために必死でした。

技術レベルもそれほど高くなく、ときには数百台の部品が1回の雨で全滅したり、オンラインアップデートに失敗して千台弱のハードウェアをすべて現地で手動アップデートしなければならないという事態を経験したこともあります。技術が発達した現在では考えられないことばかりですが、そのような経緯を経て、現在に至っています。

また、私が代表に就任してからは、パートナービジネスの難しさに直面しました。シェアサイクル事業全体を伸ばすことができれば、弊社とパートナーがお互いに利益を確保できるのですが、それほど事業が拡大していない状態でのレベニューシェアの利害対立やパワーバランスが難しく、パートナーとの関係構築には骨を折りました。

そういった意味でも、ENEOSが出資元企業という立場だけではなく私たちと同じ視点で考えてくれるパートナーになってくれたのはありがたかったです。ENEOSとの協業は、資金面でも運営面でも弊社の大きな転換点だったと言えます。




ENEOSの全国的なネットワークに感謝

-ENEOSからの出資に至った経緯や、当時の心境を教えてください。

実はFacebookでたまたまENEOSが当時実施していたアクセラレータプログラムの広告を見たことがキッカケです。プログラムの概要を見るとモビリティ分野に注力していることが分かり、ここぞとばかりに応募させていただきました。

当時はENEOSに対してはやはりガソリンスタンドのイメージが強くあり、モビリティ分野にはそれほど深く携わっていないと思っていました。しかし話を伺ってみると、実際にはエンドユーザーのサービスについて深く考えていることがわかり、印象が変わりました。また、ENEOS社内には事業を長期的なスパンで見て、今後の事業への危機意識を持たれている方が多いなと感じます。

弊社はIT通信に特化していて、ENEOSは物理的なインフラが強いという、異なる強みを掛け合わせて、どんなことができるのかと期待が高まりました。

-実際に出資を受けられていかがでしたか。

「HELLO CYCLING」は現在、北は北海道から南は沖縄までエリアを拡大していますが、昨今ではオーバーツーリズム対策でシェアサイクルを導入している地場産業が増えていて、売上や規模の拡大に繋がっています。

また弊社が全国展開していく中で、単なるシェアサイクルのサービスだけではなく交通の結節点・モビリティのハブになるイメージを作ることもできました。

これは弊社だけでは実現が難しく、各地域で絶大な信頼感を築いているENEOSあってこその実績で、特にENEOSの特約店のネットワークについては大きな恩恵を受けていると感じています。




シェアサイクルを全国へ。目標は“ちょっと歩いたら必ずステーションがある状態”

-今後の事業展開について教えてください。

これまでじわじわと拡大を続けてきましたが、弊社としてはまだ道半ばという感じです。理想は、“ちょっと歩いたら必ずステーションがある状態”。現在すでに展開している自治体でもステーションの割合は10〜20%ほどで、まだ展開できていない自治体も多くあります。

そしてある程度規模を拡大したときに課題となるのは、モビリティの進化です。高齢化社会が進みシニア対応が必要になる中、サービスとしてどのように対応していくのかを検討しなければなりません。

弊社としては福祉ではなく、アクティブに動ける人たちが楽しめるコミュニティを増やしていきたいです。さらに、可能であれば自動運転化を実現したいです。乗りたい場所に呼べば来る、降りたら自動でステーションに帰る、これが実現すれば、シェアモビリティをインフラと呼べるのではないかと考えています。

そしてもう一つ、弊社はプラットフォーマーであることを自認しています。そのため自分たちだけではなく、さまざまな企業・団体と連携して業界を拡大させていきたいと考えています。

競合他社や国内外関係なく、ユーザーが一つの体験で使えるようなプラットフォームを作っていく、これが使命だと思っています。実はすでに一部で実証を開始していて、中国の「Alipay」ミニアプリで「HELLO CYCLING」の提供を開始しています。今後は欧米も含めて対応エリアを拡大していきたいです。

-最後にスタートアップを目指す方に、何かメッセージがあればお願いします。

スタートアップとして大きな社会課題をしようとするとき、社会課題が大きければ大きいほどスタートアップだからできる部分とできない部分が明らかになると思います。

そういった際には大企業との連携・オープンイノベーションを上手く活用してみてください。弊社もソフトバンク以外に10社近くの企業から出資していただく中で、大きく飛躍したと実感しています。大企業を活用することで、一歩を大きくできる可能性があります。

日本は海外と比べるとスタートアップとVCの関係性、言い換えればカルチャーが育っていないと言えますが、一方で大企業がスタートアップを支援してくれる非常に珍しい国でもあります。頼りすぎるのはダメですが、そういった日本特有のカルチャーを活かして進めてみてはいかがでしょうか。

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