脱炭素社会・循環型社会
ENEOSと脱炭素社会の未来を創るパートナー:株式会社ウェイストボックス
2024.12.24
インタビュー者紹介
株式会社ウェイストボックス
代表取締役
鈴木修一郎 氏Suzuki Shuichiro
企業や研究機関、自治体といった様々なパートナーと連携し、エネルギーや環境、次世代技術に関する課題解決や新しい価値創造を目指すENEOS CVC。今回はパートナーである「株式会社ウェイストボックス」代表取締役の鈴木修一郎氏に「脱炭素社会実現に向けた取り組みの現在と未来」について伺いました。
同社は創業当時から脱炭素社会の最先端を走る、環境情報開示のプロフェッショナル。2024年12月9日にはENEOSとカーボン・オフセット商品事業の共同展開を開始し、カーボンニュートラル社会の実現に向けて前進中です。
今回のインタビューでは、創業ストーリーやどのような経緯でENEOSとの連携に至ったのか―両社が共に描く脱炭素社会の未来像や、具体的な取り組み内容について掘り下げます。
環境分野のスペシャリスト
-まずはウェイストボックス社の概要について教えてください。
弊社は、気候変動に関する環境ソリューションサービスを提供する企業です。「環境と経済の両立を通して、循環型社会及び脱炭素社会構築に貢献する」という経営理念に基づき、企業の段階に合わせたサービスを提案しています。
学生時代、山岳部や探検部に所属し自然の厳しさや摂理を体感してきた経験から「環境の仕事に携わりたい」という志を持ち、事業会社を経て2006年2月2日に株式会社ウェイストボックスを創立しました。
-創立当時から現在と同じようなサービスを提供されていたのでしょうか。
創立当時は「愛・地球博」の開催により、世間の地球環境への問題意識・関心が高まったことに加え、京都議定書によってカーボン・オフセットという概念が普及し始めた時期でもありました。そのため当初は弊社もカーボン・オフセットプロバイダー事業を主軸に活動を開始し、徐々にサービスを展開させていきました。
-現在では、環境分野における認定支援者としてかなり幅広く事業を行われている印象です。
そうですね。国内クレジット制度ソフト支援事業や環境省のJ-クレジット・プロバイダープログラムに参画(※1)しているほか、国内で初めて「中小企業向けSBT認定」(※2)を取得しています。「CDP認定気候変動コンサルティング&SBT支援パートナー企業」(※3)に認定されたのは、現時点で弊社のみですね。
ENEOSの出資を受けたことで事業が加速し、現在ではありがたいことに200社を超える企業と取引させていただいています。
※1 J-クレジット制度…日本政府が運営する国内の炭素クレジット制度。企業や自治体が温室効果ガス(CO2など)の排出削減や吸収量増加(再生可能エネルギーの活用、エネルギー効率化、森林管理など)に取り組んだ成果を、クレジットとして認証する仕組み※2 SBT(Science Based Targets)…企業が設定する科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標
※3 CDP…世界の企業や都市に対して、気候変動対応の戦略や温室効果ガス(GHG)排出量削減の取り組みなどを評価する世界有数のESG評価機関
脱炭素社会に向けた3つの取り組み
-ウェイストボックス社の主な事業内容について、教えてください。
弊社の事業内容は、大きく3つに分けられます。
まず1つ目は、気候変動を中心としたアドバイザリーサービスの提供です。環境と経済を両立させるためには、まず”自分たちがビジネスで収益を得ている活動がどれだけ地球にダメージを与えているのか”を把握しなければなりません。様々な計測方法や基準がありますが、昨今では海外展開を見据えて国際基準に準じた政策を検討する企業が多く、弊社ではあらゆる規格に対応できる点で他社より優位性があると自負しています。企業のCO2排出量の見える化や環境負荷の把握、情報開示を通じて、カーボンマネジメントサイクルをトータルでサポートできるのも弊社の特徴ですね。
2つ目は、カーボンクレジット創出事業です。カーボン・オフセットとは、温室効果ガスの排出削減努力をおこなった上で、どうしても削減できない排出量を他の場所での削減・吸収活動によって埋め合わせる取り組みのことです。環境を価値化することは、気候変動の緩和に貢献するだけでなく、持続可能なビジネスモデルへの移行促進や顧客ロイヤルティの向上など、企業側のメリットも非常に大きいのです。そのため年々需要は増加傾向にありますね。弊社では、クレジットの調達から創出(国内・海外)支援まで対応しています。
3つ目は、LCA、CFP算定、カーボン・オフセット事業です。製品やサービス単位でライフサイクル全体における温室効果ガス排出量を可視化することにより、環境性能を明確な根拠とともにPRでき、市場競争力の向上や企業ブランドの強化に貢献します。
-ウェイストボックス社の強みは、気候変動分野での15年以上の実績はもちろん、製品・サービス・企業ごとに「どのルールでどの基準に合わせて情報を開示すれば良いのか」を判断できるナレッジマネジメントにあると感じます。ほかに他社と差別化できる点はありますか。
そうですね。情報開示とクレジット売買などを組み合わせてサービスを提供する企業はまだ数少ないので、複数のソリューションを一括して依頼できる点も弊社の強みだと考えています。
「環境と経済の両立」を目指して
-創業のキッカケは学生時代に山岳部や探検部に所属されていたことに由来するとのことですが、もう少し詳しく教えてください。
例えば探検部では、海外にある樹海を何週間もかけて切り開いていました。毎年同じ場所を開拓するのですが、自然の治癒力とはすごいもので、どれだけ”なた”で草木を切っても1年も経てば元の鬱蒼とした景色に戻ります。しかし機械で開拓した場所は、決して元には戻りません。それを目の当たりにしたとき自然破壊の怖さを感じたと同時に、どうにか環境保全に貢献できないかと学生ながらに考えるようになりました。
-そこから、どのように創業に至ったのでしょうか。
大学卒業後は就職ではなくすぐに起業を考え、大手飲食チェーン創業者の話を雑誌で見て、宅急便配達員や引っ越しの仕事をして資本金を貯め、起業したストーリーを踏襲しようとしました。
しかし、腕が張ってしまい、とても続けられないと悟りました。結局一般的なサラリーマンとして働いて貯めることにしましたが、1,000万円貯めるのに7年ほどかかりましたね。
-それですぐ創業…ではなく、更にもう一度就職されたのですね。
事業内容を検討しているときに、当時ベンチャーだった株式会社リサイクルワン(現・株式会社レノバ)の方から「一緒にやりませんか」とお声がけいただいて、2年間ほど働くことにしたんです。サラリーマンとして働いていましたが、創業ノウハウを学べたことは想像以上に大きな糧になりました。更に独立起業後も同社と提携させてもらい、おかげでカーボン・オフセットプロバイダー事業を開始できました。
-創業当時は、どのようなビジョンをお持ちだったのですか。
環境問題は、お金にするのが本当に難しい分野です。考えや意思があっても行動に移して利益に変化させるのは、なかなかに骨が折れます。でも私は、もっと経済活動のなかに自然に組み込まれる形で価値化させられるんじゃないかと。これは今でもずっと思っていますね。
-経営理念でもある「環境と経済の両立」ですね。創業からこれまでウェイストボックス社が事業活動を継続できたのは、どのような理由があったとお考えですか。
リーマン・ショック以前は、数百社ほどのカーボン・オフセットプロバイダーが存在していました。しかしこれがリーマン・ショックで売れなくなって。余裕がないと環境問題にまで気が回らないので、多くの企業が撤退。弊社も同じように仕事がなくなってしまってしまい、どうしようかという状況でしたが、運良く経産省から国内クレジット制度ソフト支援事業のお仕事をいただいて、細々とですが続けてこられました。
商工会議所の方にも本当に親身になって話を聞いていただいて、事業活動における人との関わりや信用関係の重要性について考えさせられる良い機会になりました。
ENEOSからの出資、そして事業拡大へ
-2021年にENEOSが出資しました。ENEOSから出資の申し出があったときのことを教えてください。
ENEOSからお話をいただいたときは、驚きました。我々の環境分野と化石燃料を扱うENEOSは、基本的に相反する存在だと思っていましたからね。
-それでも出資を受けた理由は何だったのでしょうか。
興味はあったので、まずはミーティングをして詳細を伺いました。そこで話を聞いているうちに、相反する企業が手を取り合って環境問題を解決するのもおもしろそうだなと感じ、出資を受けることにしました。
-実際に出資を受けていかがでしたか。
出資を受ける一番のメリットは、やはり「信用」に他なりません。それを痛感したのは、創業後に起きたリーマン・ショックでのエピソードです。
私は当時、各地の工場で余った資材や資源を転用してお金にできないかと売り込み先を探していたときに、あるリサイクル会社の社長と出会いました。
あるとき社長は、何の変哲もないライターを持って私に尋ねました。
「このライターを500円で買えるか?」と。
特段深く考えもせず私は「買えます」と答えましたが、「では道端で知らない人が売っていても同じように買えるか?」と問い直され、そこで初めて「商売における信用の本質」に気付いたのです。
私が教えられたのは、信用がなければ物を売ることができないという商売の真理。つまり、ほんの数名しかいない零細企業である弊社がENEOSから出資を受けたことで得たものは、まさにこの「信用」なのです。
実際ENEOSからの出資によって弊社は社会的信用度を高められ、大手企業との取引を受託、事業を拡大できました。それほどENEOSからの出資は、弊社にとって一つの大きな転換点になったと思います。
-実際に協業してみて、ENEOSに対してどのような印象をお持ちでしょうか。
そうですね。皆さん、本当に優秀で誠実な方が多いという印象です。一緒に仕事を進めていて、楽しくやりがいがあります。
目指すべき脱炭素の未来像
-今後、取り組んでいきたい計画や目標はありますか?
先ほど触れた「カーボン・オフセットプロバイダー」の現代版ビジネスモデルをやりたいと考えています。単にクレジットを供給するだけではなく、それを使って社会にどのように発展させていくのか。そうした点も含め、ENEOSと一緒にサービス提供をしたいですね。
実はつい先日、カーボン・オフセット商品事業の共同展開の第一歩となるWebサイトが公開されました。両者の知恵やノウハウを共有し、社会全体の温室効果ガス排出削減に向けて今後も様々なアイデアを検討していきたいです。
参考Webサイト:カーボン・オフセット商品|産業用エネルギー|ENEOS
-ありがとうございます。業界全体への貢献や社会的なインパクトについては、どうお考えでしょうか?
「社会全体の約20%の人たちの意識が変われば、あとは繋がって変わっていく」というエンゲージメントの考え方があるのですが、昨今ではそれに基づいて地球全体の経済活動の変更を目指す動きがあります。
そのエンゲージメントに当てはめると、SBT目標に関しては、もうすでに時価総額ベースで地球全体のスケジュールの約3割まで達している、と言われているのです。
この約3割の方たちが、きちんとSBT目標を目指して経済活動中に自然な形で環境保全コストを盛り込む段階にあります。弊社としても個人的にも、今後このような経済の形をより確実なものにしていきたいですね。
売上よりも信用を大切に
-最終的には、どのような企業像を目指されていますか?
そうですね。先ほども申し上げたように、弊社の分野―とりわけ事業活動は、基本的には儲かりにくい分野です。それでも弊社には、環境を良くしたいという強い想いを持ち、その興味関心に対して自ら調べられる志と行動力を持ったメンバーが集まっています。
だからこそ、これからも売上優先ではなく信用関係を大事にしたい。最終的には、依頼して良かったと思われる信頼される企業を目指していきたいですね。
-スタートアップとして第一線を走ってこられたウェイストボックス社から、読者の方に向けてメッセージがあればお願いします。
やりたいことをお金に換えるのは、本当に難しいことです。起業支援として国の補助金などもありますが、もし一緒にできることがあるなら、私に声をかけていただいても構いません。人は信用を与えてくれるものに対価を払います。そういった観点で事業を進めていくのも一つの方法ではないでしょうか。